九州・沖縄

「霧島の夜、俺は鶏刺しに出会った。あの味が今、家に届く。」

momokan

霧島に降り立った夜のことを、今でも覚えている

霧島に着いたのは、夕方の少し前だった。

札幌を朝に出て、新千歳から乗り継いで、鹿児島空港に降りるまで半日かかった。飛行機を乗り換えるたびに、空気が変わっていくのがわかった。北海道の乾いた冷たさが、少しずつ遠くなっていく。

鹿児島空港を出た瞬間、空気が違った。湿度と緑と、どこか硫黄の匂いが混じったような空気。深呼吸すると、肺の底まで洗われる気がした。札幌では絶対に嗅げない匂いだ。

温泉街に向かうバスの窓から、霧島連山がどっしりと構えているのが見えた。何万年も前から変わらずそこにある山を見ながら、俺は「来てよかった」と静かに思った。わざわざ北海道から来た甲斐があると、その時点で既に思っていた。

宿に着いて、荷物を置いて、まず温泉に浸かった。熱めの湯が、長旅の疲れごと溶かしてくれる。露天から見上げた空には、札幌でも見えない星がいくつか出始めていた。


もし同じ夜をなぞりたいなら、霧島温泉郷の中でも「湯上がりにそのまま路地へ出られる宿」を選ぶといい。
鹿児島空港からバスでアクセスしやすくて、源泉かけ流しの露天があって、チェックインしてひとっ風呂浴びたらすぐ飲みに出られる──そんな宿だ。

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湯上がりの体に夜風が心地いい。

腹が減った。いや、正確に言うと、旨いものが食いたかった。チェーンの居酒屋でも、ホテルの食事処でもなく、地元の人間が普通に使っている、名前も知らないような店で飲みたかった。わざわざここまで来たのだから、ガイドブックに載っていない店に入りたかった。

隼人市街地から少し離れた山あいに佇む、隠れ家の如く古い木造建ての前で、足が止まった。
地鶏の里 永楽荘

看板には大きく地鶏の里と温泉マークに永楽荘。隙間から漏れる光と、低く響く話し声と、何か焼けるような匂いが、俺の本能に「入れ」と言っていた。

戸を開けた。

全員がこちらを一瞬見て、すぐに手元の酒に視線を戻した。それが正解だった。俺もカウンターの端に座って、芋焼酎のロックを頼んだ。

メニューを見て目を見張った。

「鶏刺し?」

その文字が、この夜の全てを変えた。

鶏を刺身で食う。鹿児島が本気を出すとこうなる

皿が出てきた瞬間、俺の箸が止まった。

薄く、丁寧に切り揃えられた淡いピンク色の肉。レモンが添えられ、大葉が敷かれ、見た目だけなら立派な刺身の盛り合わせだ。しかしそれは、明らかに魚ではなかった。

「…鶏、ですよね」

「そう。鶏刺し。生のまま食う」

店員さんは当たり前のように言った。近くのO.Gたちは、こちらの反応に気づいているくせに、知らないふりをしながら静かに酒を飲んでいた。

俺は正直に言う。怖かった

生の鶏肉というのは、北海道で長年生きてきた人間には「絶対に火を通すもの」として刷り込まれている。それが目の前に、しれっと刺身として出てきた。

「食べて大丈夫ですか」

自分自身に問いかけていた。


醤油だれが小皿で添えられていた。

ただの醤油ではない。少し甘みがあって、何か深みのある香りがする。

隣のおじさんが、無言でやって見せてくれた。

箸で一枚取り、だれにさっとくぐらせ、そのまま口に運ぶ。迷いが一切なかった。長年の習慣が体に染み込んでいる、そういう食べ方だった。

俺は、その通りにした。


口に入れた瞬間、思考が止まった

柔らかい。信じられないほど柔らかい。噛むというより、舌の上でほどけていく感覚だった。臭みが、ない。生の獣臭さを覚悟していた鼻が、拍子抜けするほど清潔な香りに驚いた。

そして醤油だれの甘みが、肉の旨味を包んで、口の中で一つになった。

飲み込んだ後も、旨味が舌に残っていた。消えない。じわじわと広がって、次の一枚を要求してくる。

気づいたら箸が動いていた。止まらなかった。


芋焼酎のロックを一口飲んだ。冷たい焼酎が、口に残った鶏の旨味をさらに引き立てた。これは、計算された組み合わせだと思った。鹿児島の人間は、ずっとこれをやってきたのだ。

隣のおじさんが「はじめて?」と訊いた。

「はじめてです」

「そうか。もう東京では飲めんな」と笑った。

その言葉が、冗談ではなく事実だとわかったのは、帰りの新幹線の中だった。

地鶏の里 永楽荘

「地鶏焼き」も出てきた。

レアでも食べられる新鮮さがたまらない。噛むと旨みが溢れ出てくる。

気づけば皿が空になっていた。

追加を頼もうとして、腹がすでに満足していることに気づいた。食べた量は多くない。しかし密度が違った。一枚一枚に、旨味が詰まっていた。


夜道を歩きながら、俺はさっきのことだけを考えていた。鶏刺しの柔らかさ、醤油だれの甘み、芋焼酎の冷たさ。全部が一つの記憶として、体の中に焼き付いていた。

これは、鹿児島でしか食えない。そう確信していた

帰り道、俺はあの鶏刺しのことだけ考えていた

帰りの飛行機の席に沈んで、鹿児島空港を飛び立った後から、俺はもう札幌のことを考えていなかった。

眼下に九州の山並みが流れていく。雲が出てきて、やがて何も見えなくなった。それを眺めているふりをしながら、醤油だれにくぐらせた瞬間の鳥刺し、あの柔らかさしか頭になかった。

旅の帰り道というのは、いつも少し切ない。温泉の余韻が体に残っているうちは、まだあの場所にいる気がする。しかし飛行機が高度を上げるたびに、霧島が遠くなっていく。

北海道と鹿児島の距離は、地図で見るより体に堪える。わざわざ半日かけて来た場所に、次いつ戻れるかわからない。

食い物の記憶というのは、不思議と体に残る。

新千歳に着いた頃には、俺は完全に喪失していた。


札幌に戻ると、何もかもがいつも通りだった。

冷たい空気、広い道、コンビニの明かり。それが悪いとは言わない。ただ、2日前まで自分がいた場所と、あまりにも違いすぎた。

夕飯を何にしようか考えて、近所のスーパーに寄った。鶏肉のコーナーの前で、足が止まった。パックに入った均一な鶏むね肉を見ながら、俺は思った。

これじゃない。

もちろんわかっている。スーパーの鶏肉は加熱用だ。問題はそこじゃない。あの霧島の夜に食った鶏刺しは、単なる食い物じゃなかった。あの温泉街の空気と、カウンターの空間と、全部が合わさって初めて成立していたものだった。

それは、北海道のスーパーには売っていない。

そう思って、パックをそっと棚に戻した。


その夜、焼酎をロックで飲みながら、スマホで霧島の写真を見返した。温泉の露天、霧島連山、暗い路地の写真が一枚。店の中の写真は、なんとなく撮れなかった。

「また行けばいい」と自分に言い聞かせながら、それがいつになるかわからないことも知っていた。

札幌から霧島まで、飛行機を乗り継いで半日。旅というのは、向こうから来てはくれない。こちらが時間と金をかけて、わざわざ会いに行かなければならない。

鶏刺しに、また会いに行くのはいつだろう。

その問いに答えが出ないまま、ロックのグラスが空になった


楽天で見つけた瞬間、声が出た

霧島から帰って3日後の夜だった。

深夜に目が覚めて、なぜか無性に鶏刺しが食いたくなった。理由はわからない。夢を見ていたのかもしれない。暗い部屋でスマホを手に取って、気づいたら検索していた。

「鶏刺し 取り寄せ」

正直、期待はしていなかった。あの味は現地でしか成立しないと思っていたし、そもそも生の鶏肉を北海道まで配送するなんて無理だろうと思っていた。

検索結果が出た。

スクロールしながら、一つの商品の前で指が止まった。


霧島市。【坂留鶏肉店】鶏刺しセット約1kg!手羽刺し2本と厳選醤油たれ付き!ふるさと納税。送料無料。

声が、出た。

あの霧島の、あの鶏刺しが、ふるさと納税の返礼品になっていた。しかも鶏刺しだけじゃない。手羽刺し2本と、厳選醤油だれまでセットになっている。
地鶏の里 永楽荘で食ったものと、ほぼ同じ構成だった。

「送料無料」という文字を二度見した。北海道への配送が無料というのは、実はそれだけで相当なことだ。

量は約1kg。あの夜に食った量が嘘みたいに思えるボリュームだ。一人で食うには多すぎるかもしれない。しかしそれがいい。誰かと囲んで、焼酎を並べて、あの夜の話をしながら食う。それができる量だ。


レビューを見た。111件、★4.72。

一つ一つ読んでいくと、同じような言葉が並んでいた。「臭みが全くない」「柔らかさに驚いた」「鹿児島に行ったことを思い出した」。全員が、俺と同じ体験をしていた。


ふるさと納税の仕組みは知っていた。しかしこれほど「使ってよかった」と思ったのは、初めてだった。

納税額は11,000円。実質負担は3,667円。札幌の居酒屋でちょっと飲んだら消えてしまう金額で、霧島の本物の鶏刺しが約1kg届く。しかも発送時期を自分で選べるから、大事な夜に合わせて注文できる。

俺は、迷わなかった。

カートに入れて、注文を確定した。深夜だった。画面を閉じて横になりながら、少し笑っていた。


届くまでの数日間、俺はいくつかの準備をした。

芋焼酎を一本買った。さつま国分、霧島市の焼酎を選んだ。グラスを冷凍庫で冷やした。あの夜の再現に、できる限り近づけようと思った。大げさかもしれない。しかし遠くから取り寄せるものには、それだけ丁寧に向き合っていい。

あの夜を、もう一度食いたい人へ


霧島に行ったことがある人は、わかると思う。

あの温泉の湯上がりに、細い路地を歩いて、地元の店に吸い込まれる感覚。カウンターで焼酎を頼んで、知らない料理が出てきて、一口食べた瞬間に概念が覆る感覚。旅というのは、たまにそういうことをしてくる。

まだ行ったことがない人にも、言える。

霧島は、遠い。北海道からなら特に。しかし行く価値が確実にある場所だ。温泉も、山も、食い物も、全部が本物だった。そしてその本物の一部が、今はふるさと納税で自宅に届く時代になった


坂留鶏肉店の鶏刺しセットは、今も先行予約を受け付けている。

鶏刺し+手羽刺し2本+厳選醤油だれ、約1kg。送料無料。ふるさと納税で実質3,667円。レビュー111件・★4.72という数字が、品質を保証している。発送時期を自分で選べるから、大事な夜に合わせて注文できる。

一つだけアドバイスをするなら、芋焼酎を一緒に用意しておけ。できれば霧島産のやつを。それだけで、テーブルの上に霧島の夜が出現する。



旅先でしか食えないと思っていたものが、家に届く。

それは単なる便利さじゃない。あの夜の記憶を、もう一度テーブルの上に呼び戻す行為だ。

北海道の夜に、鹿児島の味がある。俺はそれを、悪くないと思っている。


※本記事は妄想トラベルという仮想の一人旅です。実際の店舗等と違いのある記述については、ご了承ください。

※写真はフリー画像および、公式HPから引用しています。

ABOUT ME
O.G
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妄想トラベラー
平日は、どこにでもいる会社員。 時間に追われて、気づけば一週間が終わっている。 でも、週末だけは違う。 地図を開いて、 まだ行ったことのない街にピンを立てる。 現実では少し無理な距離でも、 妄想ならどこへでも行ける。 札幌から出発する、週末だけの小さな旅。 ホテルの灯り、知らない街の匂い、 湯けむりや夜風の温度まで、 できるだけリアルに思い描く。 このブログは、 「行けない旅」を楽しむための場所。 読んでくれたあなたが、 ほんの少しだけ現実を離れて、 また月曜日を迎えられるように。
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